第89回 間接部門の働き方改革

今回は、間接部門の生産性を上げるための具体的な改善内容について説明します。

間接3軸改善の具体的な取組は、まず仕事の総量削減を実施し業務負荷を減らすことにより改善を行っていける環境を作るところから始めて行きます。その後、業務フロー自体を見直し、最適な業務フローをデザインし、生産性の向上を図って行きます。



生産革新第20-5


業務削減のポイントは、業務機能と現状の実業務を比較し、業務機能につながらない仕事は出来るだけ削減して行くことです。多くの企業様のコンサルティング現場では過去からの流れの中で本来不要な業務をやっている場合も多いので、削減出来る仕事も多いものです。


生産革新第20-5


業務機能設計とは、自分達が行なうべき業務を機能面から設計するものです。組織には必ず目的と機能(役割)があります。組織目的を達成するために「業務」が発生します。その組織の機能を、現状ではなくゼロベースから発想して設計し、明文化していきます。



どの組織にどの機能を割り付けて行くか、また不要な機能を担っている業務は廃止へ、経営者の強い意志と明確な判断が必要となります。
STS分析(Self Time Study)とは、ワークサンプリング手法の一つで、一定時間ごとにやっている業務を記録することによって業務に掛けている時間を明確化し、問題点を追求していく分析手法です。個人単位の業務内容、負荷状況を把握するのを目的とします。結果を詳細に分析することによって削減対象業務や過剰機能業務などを見つけ改善ポイントとしていきます。事前に業務体系表(現状行なっている業務の一覧表)を作成し仕事の棚卸しを実施しておき、10分または15分単位でその時やっている仕事をチェックし、その発生頻度を記録し集計することにより、業務体系表のそれぞれの業務にかけている時間の割合を調査するものです。

業務機能設計とSTS分析ができたら、それらを対比し、不要業務の排除、過剰業務の削減を行っていきます。
改善活動を行なうにあたって最も大切なのは、何がムダで何がムダではないのかを明確にすることです。当然ながら何がムダなのかが分からなければ、改善を行うこと自体が出来ません。間接部門の場合はこの最も基本的なムダの定義自体が出来ていないため、改善が非常に進みにくく、進捗管理等も行なえていない場合が多いものです。一般的に間接部門によくあるムダの定義の例を以下に示します。

1.思考中断のムダ
2.転記、書換え、やり直しのムダ
3.情報の取り直しのムダ
4.会議、打合せ、メールのムダ
5.飛び込み業務のムダ
6.目的が不明確な業務のムダ
7.利用度の低い資料を作るムダ

ムダ業務は、業務機能設計、STS分析、受発信資料調査、業務フロー分析などから候補を抽出します。ムダ業務削減で大切なのはトップや部門責任者が腹をくくって対応するということです。上層部の強い掛け声が無い限り、業務を削減することは出来ません。ムダ業務の候補が明確になれば、それを、目的に照らしてやめられないか、やり方を変えられないか、分担を変えられないか、委託・移管できないか、という観点で見直しを行い、改善を図っていきます

改善活動において必ず取組むのが「人の作業効率」についてですが、特に間接部門で最も効果が表れにくいのもこの部分です。会社全体の生産性を上げていく場合には、個人の生産性向上も必須の取組です。間接部門の仕事の特徴は、同じ仕事を行っても、人によって数倍の時間差が出る場合がありますし、思考型業務では質の差が非常に大きく現れることもあります。また自ら作業速度がコントロール出来ますし、周囲から見た時に仕事の進捗が非常にわかりにくいものです。時間とアウトプット量及び質が定量化するのが難しいのも事実です。それらを改善するためには、個人としての間接生産性向上について10の切り口があります。

1. 業務目的を明確にする
2. 定型化・ルーチン化の推進
3. 完成水準の明確化
4. 各業務の目標時間設定
5. 多能化の推進(協業と分業)
6. 業務処理リードタイム短縮
7. 個人別スケジュール管理
8. 各種ICTシステムの活用
9. 集中力・モチベーションの維持
10.見える化の推進(生産性指標)

業務フロー改善では業務体系表などで分けた仕事について、開始から終了までの情報の流れ(帳票の種類と動き)を細かく分析し、現状の仕事の流れの問題点、部門間(個人間)の情報伝達の問題点を抽出し、改善を進めていきます。同時にリードタイム短縮視点で業務を見直し、業務遂行上の「待ち」の削減なども実施していきます。



生産革新第20-5


業務フロー改善のポイントは、業務の自己完結性を上げてより少ない人で対応すること、重複作業や不要な経由(ルート)を排除し流れを単純化すること、業務のリードタイム短縮を図ること、また情報の受け渡しのルールを明確化することなどがあります。

教育・意識改革のポイントは、改善知識及び改善手法の教育、発想法などの思考技術、マネジメント教育を改善と並行して改善の進捗に合わせて、適時に実施していくことが重要です。

以上のように、間接部門の改善においては、業務効率改善と業務フロー改善と教育・意識改革を同時並行的に進めることで大きな成果を出すことが出来ます。

株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 コンサルタント 松山 和人
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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