第34回 「モノを揃えてなんぼの調達・外注管理」

1.そもそも調達・外注管理とは何?

次に、調達(・外注)機能とはどのような機能なのか整理してみましょう。
実際に業務遂行するなかでの調達業務というと、サプライヤーの調査・選定・決定のソーシングと実際にモノを発注し検収・支払するパーチェシングを指す場合が多いと思います。現場レベルの日常業務、狭い意味での調達業務と位置づけられます。
一方で、製品のコストは設計段階までで、80%決定されるとも言われています。製品企画、設計が終わってから安くて良いものを調達しろといわれても、既に勝負ありの状況になっています。これからの調達は製品企画段階からの前掛かりの寄与が求められます。
調達外注部門のあるべき業務フローを考えると、経営(事業)戦略に基づいた調達戦略を明確にし(戦略購買)、事業戦略に基づく製品企画に参画して製造に関わる調達をどのように行うかを検討(開発購買)します。さらに、調達環境を常に把握し、より自社に付加価値を高めてくれるサプライヤーの探索や技術情報の収集を図り設計にも反映させる(情報購買)ことも必要になります。つまり、実際にモノを購買するというよりは、モノ作りに付加価値を与えるために、モノ作りの上流で貢献する業務が重要になってきています。
上流側の調達活動の重要性が増すことは、それはとりもなおさず、調達部門が様々な部門を巻き込んでコーディネーター(周りを巻き込む)、ファシリテーター(活動を活性化させる)、ネゴシエーター(利害関係者と協議する)の機能を発揮する場面が増大することを意味します。したがって、これからの調達部門にはこういった能力をもつ人材育成も必要となってきます。

取引先との関係を構築する上で、調達方針の明確化は重要です。これは、戦略購買の一つのアウトプットと位置づけられ、多くの企業では調達基本方針として全社あるいは部門規定として明文化されている場合が多いです。まだ明文化されていない企業では、この機会に自社(自部門)の調達方針を設定してはいかがでしょうか。具体的には、調達は間口を広くし、多くのサプライヤーからの提案を受ける(門戸開放)、馴れ合いではなく、市場原理を徹底させることを原則とし、弱い調達先ではなく、お互いに向上しあう関係(共存共栄、競存競栄)、パートナーとすべき取引先を選定して積極的に育成する(パートナー化)、といった基本原理を自社の実態に合わせて示します。さらに、外部環境を踏まえて、自社の目指すべき調達の方向性を明確に宣言することが必要です。さらに、外注加工(委託)の多い企業では、内製と外作をどのように活用するのかその基準を明確に定義し取引先への周知も必要です。取引先との問題解決では、この基本方針に則って処理することで、取引先との信頼関係も深まっていくはずです。

生産革新第20-5

2.モノが揃わない!どうすれば良いの?

では、実際の製造現場で起こっている眼前の課題に対して、どのように対応すれば良いのでしょうか?
調達活動は、経営(事業)の目指す方向と合致した意図の下で活動する事が大前提です。

しかし、モノづくりをサポートする機能としての最優先すべきはモノづくりできる環境にすること、使うモノが作るタイミングで揃っていることが基本機能ではないでしょうか?

工場は「モノを作ってなんぼ」、調達は「モノを揃えてなんぼ」です。
特に、ここまで読み進めてこられた皆さんのお悩みは、モノが揃わないということでしょう。したがって、調達部門の最優先課題はモノを揃えることである事は論をまたないでしょう。
調達を考える上でのQ(調達品の品質)、C(調達品の価格)、D(調達品の納期)を考えて見ましょう。「QCDいずれも大切」、これはご尤もですが、モノが揃わない皆さんはDを最優先とした活動をしていますか?
QCDを考える場合、QCDと併せてC(Constrain:制約条件)、O(Optimize:最適化)、A(Accept:許容)の視点を考えることが重要です。つまり、QCDのどれを制約条件(最重要課題)とし、次に制約条件の中で最適化する視点は何で、市場レベルを受容すべきは何かを明確にすることが調達レベルを向上させる上で重要です。

モノ揃えを良くするということは、製造に間に合わせるための調達改善を最優先に活動するということです。市場レベルの品質、価格であれば、あえてそこの改善は後回しにしても、モノ揃え(納期)を向上させる改善にリソースを割くという割り切りが必要です。

また、経営戦略に整合するということは、例えば事業が成長段階にあれば、生産計画に対応できる新規サプライヤーの開拓・確保を行い、事業機会を損なわないようにモノづくりできるようにする対応が重要となります。一方、事業成熟段階であれば、サプライヤーポートフォリオの最適化によるコスト効率の向上(コスト最優先の調達)が重要となります。企業の成長ステージや戦略の方向性に沿って、調達戦略を見直し、QCD/COAの視点で現状の最重要課題(制約条件)が何なのかを定義すべきです。


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このように、調達の使命は様々に変化する外部環境と内部環境の中で、QCDを最大化することです。この場合、QCDを一様に強化することは現実的ではありません。最重要課題を明確にして制約条件とし、その条件下で最適化する視点と受け容れざるを得ない視点をハッキリさせることが調達戦略の重要な切り口です。
すなわち、自社として調達戦略の意図を認識した上で、最重要課題(制約条件)は何かを明確にすることが最優先です。本講座の主題であります、「モノ揃え」が不十分な工場でいくら調達コスト(購入価格)削減を叫んでも、混乱を招くだけです。この点は、工場部門よりは事業部、本社の上位役職者が反省すべき点でしょう。目に見えるコストという視点だけに捉われると、損益計算書上の調達費は下がったが、見えないコストの増大や出来高未達で損益はむしろ悪化したというような笑えない話になってしまいます。

現状で、調達納期の遅延・変更により生産計画の変更が頻発したり、欠品による工程停止、それに伴う仕掛の増大に悩んでいる工場・企業では、まず調達納期を制約条件として改善を行い、その制約範囲の中で品質を最適化することが最優とすべきです。その際、調達コストは市場価格を許容する方針を徹底させることが重要でしょう。このためには、調達部門は常に納期、品質、価格それぞれの市場レベルを把握しておく必要があります、これが情報購買の肝です。特に価格情報は比較的収集し易いですから、市場レベルは常に把握しましょう。また、Topから毎期毎期、調達コストを〇〇%低減せよ、といわれている担当者の方は、なぜ、わが社が競合より調達価格を市場価格より安く調達できるのか考えてみてください。他社に対して優位に立てる条件が見つからない限り、そうやすやすと価格低減は図れません。それよりむしろ納期、品質面での改善の方がよほど効果があがります。但し、市場価格の把握はお忘れなく。


3.情報コントロールによるモノ揃えの強化

調達における、モノ揃えを改善する上で、情報のコントロール(管理)は非常に重要です。工場におけるモノづくりの基本情報は生産計画です。生産計画と調達計画さらには出図計画などの計画系全体を生産計画体系と位置づけ、其々が同期されて、計画が守られる仕組みに改善することが必要です。生産計画体系における情報コントロールは、きっかけ情報(主として日付情報)を基に何をアクションするかがコントロールのポイントです。

調達活動では、生産計画におけるどの時点で調達品が必要となるかが、調達にとって最重要のきっかけ情報です。必要日から調達リードタイム分を遡って発注しない限り、通常モノは揃いません。これが発注期限となります。発注前には必要とする図面が出図されている必要があります。

 

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モノ揃えとはこのように、必要日に合わせて上流のきっかけ情報を同期化させることです。

それぞれのタイミングを決めるには、基準日程による管理が有効です。基準日程とは、ある製品を製造する上での標準となる工程表(多くはガントチャートであらわされる)のことです。

基準日程上で必要日を明確にしていきます。特に製造リードタイムの長い製品では、製造着手から1-2ヶ月後に必要日が訪れるケースも多いですから、ある程度細かく設定することが納期の安定と、先行納入による在庫の増大を防ぐことに繋がります。

 

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一方、製造リードタイムの短い製品では、実用上製造着手日に合わせてモノ揃えを完了することも差し支えないでしょう。JITのように全ての取引先をコントロールできれば理想ではありますが、多くの企業では困難なようです。
製造の基準日程が定まったならば、必要日に合わせて発注完了する必要があります。

そのためには、購入品の標準調達リードタイムを調査し、決めておく必要があります。その場合、1日2日の違いを気にするのではなく、ざっくりと、長納期品、中納期品、短納期品、に大きく3分類し、其々必要日の6ヶ月、1ヶ月、1週間をタイムリミット(各期間は実態に合わせて設定する)として発注完了させるような仕組み(システム)にしておけば、必要日に間に合わなくなるといった事態は防げるでしょう。さらに、前回も述べましたが、組織としての調達活動にして、同じ仕組みの中でお互いがフォロー、協力できる体制にしておくことは当然です。 さらに、もう一つ重要なポイントは、重要な調達品の取引先の負荷状況を定期的に把握する仕組みを作っておくことです。環境変化により標準調達リードタイムでモノが入らなくなるケースがあります。特に景気の上昇局面ではモノの取り合い、加工枠の取り合いが取引先で発生します。このあたりの情報を的確につかむこと、工場内で共有することが、モノ揃えによる混乱回避に繋がります。

 

株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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