第51回 「強い管理職をつくる」

強い管理職をつくる! ~リーダーシップを発揮するには?



1.管理職への期待と言い分

経営者や部下の管理職に対する言い分は、概ね以下のように集約されます。経営者は、役員の右腕となって継続的に成果を出す活躍、部下は自分たちの規範となって自分たちの成果を認めて処遇してくれることを期待しています。でも、それが叶わないのが現実です。そして、そのことによる失望と批判の矛先が管理職に向けられてリーダーとしての活性が失われているのです。

一方、管理職は様々な要求を受けるものの、方針が不明確で模範がなく、また人材不足で多忙を極めることによる負荷の大きさを嘆いています。このような傾向は、2012年の経団連による「ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応」にも記載されているところでありますが、組織はここで立ち止まっているわけにはいきません。概念論や悲観論、心構えではなく認識と正しい行動を身につけたリーダーが自信を持って、仕事に就ける環境整備が重要になってくるのです。

生産革新第20-5


2.管理職の役割

管理職の役割とはどういうものでしょうか。組織運営を管理すること、意思決定をすること、人材育成をするすることなど・・・・いろいろな期待が寄せられますが、自分の担当組織を常に最良の状態に保ち、最高の成果を出させ続けることが基本的な役割です。そのために管理職は、ステークホルダー(取引先、顧客、他部門、後工程など)との関係を良好に維持する責任があります。

生産革新第20-5


管理職は、幅広い視野をもってチームを牽引することを期待されています。従って、優秀なオペレーターの延長上に管理職というポジションがあるのではなく、新しい視座で経営目標を実現させることが重要な責務であると考えなければなりません。研究や技術開発職、企画職などの創造業務に就く人は、管理職になりたくないと考えるようですが、管理=監視という視点ではそうなるでしょう。しかし、創造業務の価値を高めるためのリーダーと考えると管理職は魅力的な役割になります。いわゆる人をひきつける第一人者なのです。


3.正しい行動

これまで延べてきたことは、ハードルが高いと感じられるかもしれませんが、あくまでも正しい認識と正しい行動が基本になるのです。ここでは、「引っ張るリーダーになる」の行動を考えてみたいと思います。
引っ張るリーダーとはどういった存在でしょうか?前にも述べましたが、権力(権限)や腕力(勢い)だけで、問題が解決しない時代です。理屈や技術、現場対応力に加えて、「組織の感情をコントロールできること」が重要です。いわゆる「その気にさせる」ことが物事の雌雄を決する要素になってきたのです。力で組織を統率するにはたくさんのエネルギーが必要ですが、メンバーがリーダーに心酔していれば、少しのエネルギーで組織は動きます。アップル社スティーブ・ジョブズ氏がペプシコーラの社長 ジョン・スカリー氏を引き抜こうとしたときの有名な説得を紹介します。

理で訴える・・・我々が展開しようとしている事業に、君の存在が必要である
情で訴える・・・君はこのまま一生ものを売り続けるだけで満足か?それとも世界を変えたいか?

このように、「この人についていこう、一緒にやろうという」と思わせるためには、論理的な側面と心を奮い立たせる刺激が重要になってきます。このように、「いかにその気にさせるか」が重要になってきますので、そのための5つのポイントを述べます。

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①専門性
「すごい」 「かなわない」と思わせる、特定領域に関する高度な知識、経験、実績を持っていることです。
このことによって頼られる存在になることができますが、何が自分にとっての専門性なのかが具体的にわかっていること、専門性を磨くために主体的な行動をとっていること、その専門性が何に役立つのかを明確に言えることが必要です。部下は固有技術や知識を磨きスペシャリストやエキスパートに成長しますが、管理職は自分が持つ専門性を使って価値を生み出すことが使命ですから、「自分磨き」だけに終わらないようにしなければなりません。


②人間性
「すてき」 「あのようになりたい」と思わせるような魅力があることです。人は魅力ある人についていきますが、リーダーといえども、磐石の実力を有しているわけではありません。メンバーの支援が必要です。そのときに、「魅力ある人」であることが重要な決め手になるので、日ごろから魅力を高める努力が必要です。容姿端麗である必要はありませんが、清潔感など好意を持たれるマナーがあること、ポジティブに評価をしてくれること(認めてくれること)、身近な存在であることなどが必要になってきます。また、頷く・目線を合わせるなどの人の言うことを聴く姿勢、頑張ったこと・得られた成果を具体的に褒める、人のために喜んで時間を割く、受けるより与える、失敗を潔く認め挽回する、常にポジティブな言動をとるなど、この人といるとプラスのエネルギーが沸いてくるといった存在になることが必要です。


③返報性
「ありがたい」という思いが、相手に伝わることを言います。人は、他人から何らかの施しや好意を受けたときそれに報いたいという心理を持っています。親孝行をしたい・恩師に報いたい、自分を育ててくれたチームの勝利に貢献したい、後輩の期待に応えたいといった感情です。

ここで、デニス・リーガン博士の実験を紹介しておきます。
 1.1人はリーガン博士の実験助手、もう1人は純粋な被験者が同じ部屋にいる
 2.実験助手が飲み物を買いに行く
   A. 自分の分しか買ってこない
   B. 被験者の分も買って帰り、渡してあげる
 3.その後、実験助手は被験者に「チャリティーくじの購入」を依頼する

この実験の結果、Aの実験助手が自分の分しか買ってこない場合より、Bの被験者の分も買ってきて渡した場合の方が、2倍近くもチャリティーくじの購入確率が上がったということです。


④一貫性
「ぶれない」ことです。同じことを言い続け、言動がぶれない人物は人をひきつけることができますが、管理職の一貫性にはもうひとつ重要なことがあります。それは、部下は上司に相談するときに、ある程度答えを想定していて、その答えをもって確たる信念を得ようとすることです。相手の軸がぶれるようでは、安心して相談ができません。しかし、信念を貫くあまり、変化を避けてリスクや損失を招いてしまう可能性があります。また、部下が受身で何も考えなくなってしまう危険性があるので、注意が必要です。


⑤厳格性
「厳しい」ことです。権限・権力によらず、信賞必罰を堂々と行う厳しさに人はついてきます。厳しいが暖かい接し方は、勇気とエネルギーが必要ですが、必ず部下の成長につながります。これと反対に、冷たく甘い接し方は、部下の成長を止め、組織をバラバラにするので、安易な妥協は慎むべきです。

しかし厳格性は、時としてハラスメントにつながるので注意が必要です。特に、①メンバーの経験や力量が低いとき ②メンバーが依存型のとき ③リーダーが自分自身に厳しすぎるときは、厳格性を意図的に緩めることも必要です。

株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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