第59回 「攻めの設備保全」

設備保全の取り巻く環境と問題点



安定した生産を行うには設備の安定稼動は最重要項目のひとつです。その為、設備保全を行い、設備が突発的にトラブルを起こさないようにしていく必要があります。しかし、現状は毎日の突発トラブルに追われて、後手の対策になっていることが多く、先手の対策が取れていないことが多くあります。今回の生産革新講座ではどのようにすれば設備保全を効率的に行い、設備を安定稼動させることができるのか、触れていきたいと思います。



1.設備保全を取り巻く環境

製造業を取り巻く環境を考えると、日本の生産労働人口が減少局面にあるなか、労働力を維持しつつ競争力を強化するために、労働力の有効活用や生産性を向上させるための方策が必要です。その中のひとつとして生産設備の自動化が加速していることがあげられます。その為、生産設備は自動化により構造が複雑化している状態です。 また、顧客からは短納期対応への要求が強まり、製造現場では製造リードタイムの短縮が求められ、その結果、設備の故障が発生したときの工場に与える影響が以前よりも大きくなっています。 これらの理由から設備保全の必要性は高まる一方で、設備保全を効率的に行い、設備を安定稼動させることは工場安定稼動だけではなく、工場損益にも大きく影響します 。



生産革新第20-5



生産設備は自動化が進み、また環境も変化しているのに、保全体制やメンテナンス周期はそのままということはないでしょうか。環境の変化に追随する設備保全体制をとっていくことが必要となってきます。

2.予防保全活動

設備保全は大きく分けると「予防保全」と「事後保全」の2つがあります。この2つを使い分けて活動することが設備保全を効率的に行う為のポイントとなります。まずは、設備保全について考えていく前に、「予防保全」と「事後保全」について整理をしていきたいと思います。予防保全とは、設備が故障する前に計画的に点検、給油、パーツ交換し、設備故障を未然に防ぐ保全方法です。予防保全を行う上でのメリットとしては、設備故障を未然に防ぐことができる為、設備を安定して稼動させることができます。よく“故障ゼロ”を目標に掲げて活動を行っていることがありますが、それはまさに予防保全を徹底的に行うということだと思います。デメリットとしては、故障する前に交換を行う為、保全費用が増加したり、予防保全を頻繁に行うと計画停止時間の増加したりすることなどがあげられます。 予防保全を分類すると時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)と状態基準保全(CBM:Condition Based Maintenance)の2つに分かれます。定期的に実施しているメンテナンスがTBM、近年、IoTなどで注目されている予知保全の考え方がCBMです 。


生産革新第20-5


設備を安定稼動させるには予防保全が必要になってきますが、所有している資源も限られていますし過剰に行うと計画停止時間の増加やいじり壊しといった、安定稼動とは逆のことが発生してしまう為に設備の兆候をいち早く発見する仕組みを構築し、効率的に予防保全を行う必要があります。


3.事後保全活動

一方、事後保全とは設備が機能低下、もしくは故障停止した後に補修、パーツ交換を実施する保全方法です。一般的に事後保全と聞くと、発生してから対処している為、全てが悪い事として考えられることが多いですが、事後保全には「緊急保全」と「通常事後保全」という考え方があり、「通常事後保全」は意図的に事後保全にしているトラブルとなります。 例えば、家や事務所の蛍光灯はどのようにメンテナンスしているでしょうか。定期的に交換する場合もありますが、灯りが消えたりや点滅し始めたら交換しているケースも多いと思います。そのようなケースで通常事後保全が適応されます。当然、電球が切れたままではいけませんので、すぐに交換できるように予備の電球が必要となります。通常事後保全のメリットは保全費や計画停止時間を最小限に抑えることができることです。
効率的な設備保全を行うには通常事後保全を活用することも大きなポイントとなります。


保全活動を行っているが、工場安定稼動としての成果が表れない問題点として、これら保全種類の分類ができておらず、保全を行う優先順位が決められないことがあげられます。
次回は、工場安定稼動のためにどのように効率的に設備保全を行っていくかについて説明していきます。

株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 マネジメントコンサルタント 川津 武史
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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