第50回 「強い管理職をつくる」

<はじめに>
「管理職のリーダーシップが企業の盛衰を担う」。このような期待とプレッシャーの中で孤軍奮闘されている方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。最近、「リーダーシップをうまく発揮できない」ことで、改善や改革がうまく進まない事例をよく目にします。
今回は、管理職のリーダーシップについて、それを発揮できない理由と、リーダーとしての正しい行動について考え、「企業の中核になる人材」を考察したいと思います。


強い管理職をつくる! ~なぜ、強い管理職が少ないのか?



1.管理職を取り巻く環境が変わってきた

管理職受難の時代といわれますが、組織内の軋轢、特に上司/部下の意識の違いに挟まれ、期待された役割を果たせない方を見かけます。それは、個人の資質の問題でしょうか? それともやる気の問題でしょうか? それぞれにも要因があると思いますが、最も大きな問題は、組織の価値観や運用の仕組みが現実と合っていないことです。確かに、価値観の多様化、ビジネスモデルや働き方の変化など、私たちを取り巻く環境が大きく変わってきましたが、このことだけがリーダーシップを発揮しにくい原因とはいえないのではないでしょうか。戦後の混乱、高度経済成長、グローバル化、低成長、そして多様性の時代となって必然的にリーダーの役割が変わってきただけなのです。「強い」の裏返しは、「弱い」ですが、今の管理職の立場は相対的に弱いといえます。先ほども述べましたが、組織内の軋轢に苛まれ、自分たちの主張をすることもままならない状態にあります。今までは、役職に絶対的な権限が与えられ組織の秩序が保たれてきましたが、これからは違います。権限に頼らず、権威をもって組織価値を高めることが重要になってくるのです。

生産革新第20-5


理想のリーダー像は、次のように定義されることが多いようです。

 ・ 経営層と現場社員の両方を共感させるような魅力ある人材
 ・ 心技体に優れ、困難に怯まず組織を引っ張ってゆける人材
 ・ 実力・実績がダントツで、尊敬の念を抱かせている人材

しかし、身の回りにこのような人物はいるでしょうか。概念論を語りノウハウを身につけただけではリーダーとはいえません。また、机上の知識だけで組織をあるべき姿に誘導することはできません。正しい行動や考え方、苦難を乗り越えた体験、さらには優れた人を真似ることによってリーダーシップが高まるのです。管理職は目的ではなく手段です。組織の理念や方針を実現させるために存在するのです。個人の資質に焦点を合わせるのではなく、目標の実現に向けて組織に必要な管理職の役割を再定義する必要があります。

2.管理職の戸惑い

バブル、ポストバブル世代が組織の中心になってきましたが、この世代の特徴はどちらかといえば、序列を意識しない環境で育った人が多いことですが、現実社会での勝ち負けや苦難を乗り越えた体験に乏しく、いざビジネスの社会で勝つ!となると何をしたらいいのか?迷ってしまうこともあるようです。理想の上司が強い統率力があり、自分に寄り添ってくれる人であるという風潮も、そのあたりに由来しているのかもしれません。その一方で、高度成長期のメカニズムや意識が残ったままの組織が多く存在します。「頑張り」や、「勢いで何とかなる」とういう前提で問題に対処しようとする風土です。何かを成し遂げたいという「志」は重要ですが、それだけでは、問題を解決することは出来ません。まして、答えが一つではない問題に挑む時はなおさらです。組織の風土と期待する役割のギャップが管理職を戸惑わせている大きな要因です。

生産革新第20-5


管理職の職務定義と、任用時の期待や就任後に実務として求められることのギャップも問題です。次世代の経営の担い手として期待されながら、日々起こる実務上の問題と格闘せざるをえないのが実情です。


生産革新第20-5


リーダーシップとは、アメとムチでもって人や組織を支配することではありません。また、先に述べた類まれなる存在のことでもありません。人から一目を置かれる存在であって、変化を冷静に受け止め目標に向いPDCAを回し続ける力を備えていること、そして自信をもって最前線に立つことで発揮されるものなのです。単に組織の秩序や活動結果を監視するだけでは管理職といえません。管理とは、「あるべき姿を設定して、現状との乖離を正確に認識して、そのズレを是正する一連のサイクル」です。そして、それを果たすのがリーダーであって、地位のことではないのです。誰でもなれるわけではありませんが、誰もなれないものでもありません。上司と部下といった上下関係だけを重視して、管理職になれないことは「ダメ人材」という方程式は崩れています。管理職は組織の一つの役割なのです。ただし、人の上に立つということは魅力的なことで、今も、多くの人がそれを目指しているに違いありません。ここで申し上げたいことは、人や組織の統率は決して支配ではないということです。憧れのリーダーはいつの世でも、どの組織やチームでも必要なのです。

株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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