第73回 品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る

前回のコラムで品質保証の機能に関して説明しましたが、今回のコラムでは品質管理の機能の詳細を説明します。



1.品質管理(Quality Control)の定義とは

【広義】品質マネジメント上の目的を定め、それを達成する為、経営上の資源を有効に使って行う全ての活動で、目標に向けての革新を行う。
【狭義】目標品質に向けて、製品の品質改善と品質システム・プロセスの維持向上を図る活動。


2.品質管理の基本的な考え方

① 品質第一

顧客は、製品やサービスの品質を第一に考えています。したがって企業でも全員が品質を第一とした考え方を持ち、品質管理を推進することが必要です。

 

② 顧客満足

製品やサービスがお客様に満足していただける事が非常に重要であり、お客様を最重要視する考え方を「顧客志向」、「マーケットイン」など表現しています。

 

③ プロセス管理

製品の品質だけでなく、常に良い品質のものが生み出せるように、プロセスに着目し、品質を工程で作り込むという考え方です。品質管理機能が曖昧となっている会社において最も不足している機能がこの「プロセス管理」です。

 

④ 重点指向で問題・課題に取り組む

限られた経営資源の中で、「優先順位」を明確にして、順位の高いモノから改善活動を行います。現在発生している“重要不具合”を最優先に対処することと意味が違うことは十分に理解する必要があります。

 

⑤ 改善のサイクル

品質改善のサイクルは、PDCAとSDCAのサイクルを回す事です。改善活動においてPDCA(Plan→Do→Check→Act)を回すことはよく知られており実践されている会社も多いと思います。品質改善活動ではこの改善のサイクルの中で、標準化による維持活動を重視した取り組みが求められます。SDCAは、Standardization(標準化)→Do(実行)→Check(評価検証)→Act(改善)のことで、PDCAサイクル毎の一定の維持期間に実行します。

 

⑥ 事実に基づく管理

当然ですが、品質管理部署には正しく事実を入手して正しく判断し、行動することが求められます。そのためには得られたデータから論理的、統計的な手法を用いることで判断し行動する必要があります。代表的な手法には「QC7つ道具」や「新QC7つ道具」があります。

 

⑦ バラツキの管理

製品やサービスには、必ずバラツキが発生します。統計的手法でバラツキを最小にすることを目指します。製造部門に品質管理機能の大半を担わせている会社ではこのバラツキ管理がおろそかになっている傾向があります。品質部門が責任をもって関わる必要があります。

 

⑧ 次工程はお客様

顧客志向を自分の仕事に展開させたとき、自分の次の人の仕事や工程が自分のお客様になります。この考えで皆が仕事をすれば良い結果に結びつきます。会社の風土として根付かせるためには品質管理部署からの継続的な(しつこい)発信が必要です。

 

⑨ 標準化

製品のつくり方や仕事の進め方、やり方についての標準を決め、これを活用する事また、守るべきルールを構築し、皆が遵守していく考え方です。先述のSDCAの手法に繋がります。

 

⑩ 再発防止・未然防止

不適合製品が発生経緯を調べると、4M(Man,Machine,Material,Method)要素の3H(初めて、久しぶり、変更)の影響によるものが大半です。これらに着目し、再発防止を図り、同様なことが発生しないように未然防止を図ることが重要です。

 

⑪ 見える化

見える化の目的は、プロセスの状態を誰が見ても理解できて、正しい行動が取れる状態にすることです。その為に、活動状況や結果を一目でわかる状態にして、課題の共通認識が出来ることが重要になります。

 

⑫ 全員参加で取り組む

特定の部署だけでなく、組織の一人ひとりが改善活動を行うことにより効果は大きくなります。品質管理部署には全員参加に向けた風土作りも含めた強いリーダーシップが求められます。



3.QC7つ道具の活用

主として、数値データを図式化して問題の捉え方、現状把握、原因と所在の追求や結果の解析など、主として数値データの解析に重点を置く手法です。QC7つ道具はあくまで対策や改善の糸口をつかむ為の補助的なツールになります。


生産革新第20-5

生産革新第20-5

QC7つ道具で重要なポイントは以下の通りです。

1. バラツキを分析するもので、原因を排除するものではありません。問題発生の予兆を掴み、予防保全に活用されるべきものです。

 

2. 今発生している問題に対してとるべき行動は、現場・現物・現実主義と原因究明です。統計処理、グラフつくりをしている時点で問題の対策が遅れていることの自覚は重要です。

 

3. 統計的手法は事前検討段階で活用し、品質達成の為の条件検討に活用されるべきです。原因排除後、後付け資料での追加は無意味です。


■ 新QC7つ道具の活用
数字を扱う物でなく、定性的な情報を扱い、技術情報や市場情報等といった言語データを基に、複雑な現象から問題を解決する為の有益な情報を得る為に使用されるものです。


生産革新第20-5

4.製造現場の品質保証活動

① QCフローチャート

製造現場では、不良品を「入れない」、「つくらない」、「出さない」という事が基本です。その為には、1.正しい材料・部品を使い、2.正しい治具・設備を使い、3.正しい作業方法で品質を工程で作り込む必要があり、管理道具の基本となるのが、管理工程図(QC工程図)になります。製造の工程をフローチャートで全てを書き出し、それぞれの工程での材料、設備、治工具、製造方法を特定し、確認・記録できる様にした表です。この表から管理すべき項目を抽出し、管理チェックシート作成し、また、作業上の管理点を抽出し、作業指示書を作成します。意外とこれら一連の手順が明確化されていない会社が多く見受けられます。類似設備や類似作業のコピペを繰り返すことで3H管理が疎かになる恐れがあります。

 

② 管理と改善

品質管理部門と連携を取り、PDCAとSDCAのサイクルを回しながら品質レベルを高めていく必要があります。QCフローチャートとそれから派生する帳票類は生きた文書です。常にアップデートを心がける必要があります。

 

③ データの収集と活用

工程での不良品は、すぐにチェックシートに記入し、新たなタイプの問題が発生していないか等、不良率もリアルタイムでわかるように(見える化)する必要があります。部品不良の実態が不明確な会社が多いようです。組み立前に発見された不良部品も不良としてカウントし記録に残すべきです。また製造部門では不良率だけではなく、手直し品を除いた良品率を意味する直行率でも観測し、不良発生の真因をつぶす対応を行うことが重要です。

 

④ 標準化

標準化のメリットは、作業方法や品質基準の規定により、安定した品質で製造・生産が可能になることです。ミスを防ぎ、時間と思考力の有効活用と業務の属人化を防ぐことが可能になります。デメリットは、決められたことだけをこなし、物事を考えなくなり、モチベーションの低下や改良、改善の進歩を阻害する可能性があります。PDCAとSDCAのサイクルを回すことの意義がここにあります。


次回のコラムは、品質とコストに関しての内容です。



株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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