第52回 「強い管理職をつくる」

強い管理職をつくる! ~成果を出す



1.成果を出すためには?

成果を出すには、資質・能力とやる気が必要なのは言うまでもありませんが、重要なことは、この二つが掛け算のイメージで関連するということです。いくら資質や能力があってもやる気がゼロやマイナスでは、成果はでません。ここでは、やる気をやりぬく力、モチベーション、コミュニケーション、コーチングの視点で考えてみたいと思います。

①やりぬく力

書籍等で様々な考え方が紹介されていますが、次の4つの視点が必要です。


● 興味を持つ・・・「これだ!」と思う好きなこと、「いい」と思ったことをとにかくやってみる
● 目的を持つ・・・自分が取り組んでいることは重要であると信じ、明確な目的を掲げる
● 研鑽をする・・・深く興味をもったら、高めの目標を持ってひたすら研鑽に打ち込む
● 希望を持つ・・・成長思考を持つ、楽観的に考えることで希望を持ち続ける。


「下手の横好き」はいけませんが、「好きこそものの上手なれ」を目指すことが重要です。

 

②モチベーション

モチベーションが重要だということは言うまでもありませんが、では「モチベーション」とは何でしょうか?

 

生産革新第20-5


モチベーションとは目指すべき方向や目的に向かって行動を起こし、その行動を維持する力と言えます。
目的・目標が腑に落ちていることと、行動を継続させることがポイントになります。


■モチベーションの源泉
明確で共感できる目的・目標を持つことに加えて、もうひとつ大切なことがあります。それは、失敗の恐怖にさらされないようにしっかりとした計画や準備を行うことです。失敗したときの責任追及、責任転嫁、非難、自分(達)で責任を負えないリスクがあったら誰でも尻込みをしてしまいます。実はこのことでモチベーションが上がらないことがよくあるのです。プロジェクトの進捗や生産性を含む改善に大きな影響を及ぼすことですので、念入りな対応が必要になります。


■モチベーションを起こす2つの要因
モチベーションを起こす要因には、動因と誘因があります。誘因は、その人の外側にあり、欲求を満たすものです。主に目標や対価が対象になり、社会的な地位や名声、給与など金銭的インセンティブ、失業や給与低下といった危機からの開放、知的好奇心をくすぐるものなどがあたります。一方で、動因とは、その人の内側にあり、欲しいという気持・願望・目標達成意識や意欲・周りの人々に対する配慮・自分の置かれた立場と責任感・喜んでもらえる事への期待などです。誘因は不満足に思っていたことの解決が主なものですから、一気にバロメーターが上がるが、解決を見た瞬間に熱が冷めます。それに比べて動因は、その人の内面から湧き出すものなので、バロメーターが上がるのに時間がかかるものの、一度火が付いたら継続性が高いものといえます。イベントなどでうまく盛り上がりを作り、誘因と動因を組み合わせながらモチベーションを維持向上させることが管理職に求められます。


■モチベーション向上のために必要なこと

モチベーションの源泉である目的・目標を徹底的に共有、刷り込むことが大切です。目的はわかりきった話としてキッチリと抑えないことがありますが、わかっているつもりでも、一度平易な言葉で短く表現してみてください。そうしないと、腑に落ちないままプロジェクトが走り始めることになります。次に、行動に移ることです。机上の議論や分析ばかり行っていると、発想が固まり、やがてネガティブな思考が多くなり、モチベーションが低下します。小さなことからチャレンジする、何事も具体化をする、そして否定や非難ではなく、あるべき姿と事実だけに基づいて行動することが大切です。そして、最後は評価をすることです。事実と論理的な判断をもとにできたこと、やったことを肯定的に評価する、そして成功体験を積ませるための支援が重要です。前向きな失敗を過度に追及せず、次に述べるコーチングの技法を使ってやる気に繋げることも効果的です。

 

③ビジネスコミュニケーションとコーチング


■ビジネスコミュニケーションの原則 (引用:守谷雄司氏、リーダーシップ)
日常生活の意思疎通と違ってビジネスコミュニケーションは相手の意思決定を促すことを目的にしたものですから、次の3点が重要になります 。

・何を伝えたいのかという目的が明快であることと、その目的にかなった方法が重要です。メール、文書、面談、ヒアリング、ミーティング等、相手に伝わる適切な方法を選ばなければなりません。


・「~らしい」とか「~だろう」といった根拠の薄い、曖昧な表現は避けるべきです。また、できるだけカタカナ英語を使わないほうが、相手に伝わりやすくなります。語彙の問題ではなく、話し手と聞き手が意味を共有できない言葉では意思がつたわらないからです。また、5W1HにHow much を加え、5W2Hを明確にして、そして主語を忘れないことも必要です。


・良いタイミング(適時)、良い方法(内容や方法)、適度な量(頻度・内容量)で効果を考えたコミュニケーションが大切です。ブレーンストーミングのような思考方法もありますが、結論の道筋がある程度見えていることに、闇雲に会話を重ねる必要はありません。


■コーチングの原則
コーチングとは、「目標達成のために必要な能力やリソースが何であるかを見つけ出し、それを本人に備えさせるプロセスを言います。語源は乗り合い馬車(Coach)にあり、大切な人を、その人が望むところ(目的地)まで送り届けるという意味合いですから、コトを起こすのはコーチングを受けた人であるという認識が大切です。主に、次の3つの行動がポイントになります。


・親身になって耳を傾けることです。意識せずに「キイテイル」のは「聞く」という字が当てられます。人間はインプットされた情報を時間と共に忘れるようになっていますので、しっかり頭に刷り込むには、聴いて、考え、返信(コーチング)するというプロセスを回すことが必要です。


・次に、質問をすることです。質問には、理解が出来ないことを聴き返す、腑に落ちないことを正す目的で問い直す、議論を発展させるために問いかけをするといったパターンがありますが、コーチングでは最後のことが重要になってきます。意図を持って、簡潔で分かりやすい言葉を用い、一つずつ対話を終わらせることがポイントです。

 

・最後に、認めることです。「認める」とは存在を受入れることです。相手のモチベーションが高まり自身の存在価値を信じるようになり、成長意欲が高まります。そして何より、お互いの信頼関係が強くなります。

 

2.管理職(リーダー)としての成長

以上、述べてきたことはいわば基本的な所作の部分ですが、座学だけではリーダーシップを醸成できません。実践的な実力を身につけるには、修羅場・土壇場・正念場経験と、他流試合を通じた普遍的な考え方の習得が必要です。


生産革新第20-5


このような能力は、自部門の中や独学では身につきません。部門や事業部を超えた交流、更には他社の人々との接触が有効になります。


3.最後に

生産革新第20-5

管理職といえども、人間です。私たちは、多くの仕事において肉体労働、頭脳労働(繰り返し計算、単純な見積もり作業)から解放されました。これからの管理職の役割は感情のコントロールに重点が置かれるようになります。企業は人なり。もう一度、「人」の原点に立ち返ってマネジメントを考えることが大切な時代になってきたと言えるでしょう。



株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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