第36回 「一品受注型企業のリードタイム短縮」
一品受注型生産のビジネスプロセス |
1.一品受注型企業の悩み |
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一品受注型生産とは単品受注生産、個別受注生産、受注設計生産、一品一葉生産とも呼ばれる生産形態です。基本的には製造する前に設計が必要な生産形態で、標準品の見込み生産とは対をなすものです。
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一品受注型企業は他の業態から見れば、同一仕様での安売り競争が無いことからずいぶん儲かっているように思われていますが、実際には第1図にあるように「相見積りが当たり前で場合によっては見積り提出だけで終わり失注」、「見積精度が低く、実績が2~3割ずれるのがザラ」、「忙しい時は徹底的に忙しいが、暇な時は何もすることがない」など納期は守りにくく儲けも薄い業界になりがちです。 このコラムでは3回に渡って、リードタイム短縮で一品受注型生産の企業の競争力がどう高まるか、リードタイム短縮はどのように進めるかを論じていきたいと思います。
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2.リードタイムが長いことが諸悪の根源 |
一品受注では顧客は発注決定までは価格(コスト)と機能・品質、納期、サービスで総合判断を行います、一旦発注を決定すれば、顧客の関心は「納期厳守」に移ります。発注先以外の代替品は用意していない訳ですから、発注元に取って納期遅れは最終製品の出荷にかかわる最重要課題となり、もし遅れればそれがトラウマとなって今後のリピート発注先の候補から消えることもあります。また別製品の選定にも大きな影響を及ぼすため、リードタイム短縮(納期遵守)が、「継続して取引する会社」という評価につながり、大きな競争力となるわけです。当然一品受注型企業はこのことを良くわかっており、各部署では納期厳守意識は高く、長いリードタイムにより発生する課題を解決しようと活動していますが、多くの企業ではそれが仕組みとして回っておらず、結果としてその活動自体がロスコストになり、収益悪化につながっていたりします。(第2図)。
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すなわち「設計」では、前の仕事が終わりきれていないから次製品の設計を着手できず、その結果、納期に追われ、設計完成度が低いまま出図し出図自体も遅れる。「製造」では製品滞留期間が長いため、レイアウト面や管理面でロスが発生。また計画どおりの作業ができないため次製品の生産に取りかかり、モノ探しや調達・外注との調整作業などムダが発生。納期直前に間に合わすための無理な作業につながる。「客先納品」では完成度が低いことで発生するすべてのしわ寄せを受けて、顧客先での対応や手直しで、予定していた出張スケジュールが伸び、コストが増大。などがその代表例で、リードタイムが長いことが『負のスパイラル』を生み、諸悪の根源になっています。 |
3.リードタイムを競争の武器にする |
以上述べたように、リードタイムが顧客の信頼度を左右するため、逆に「納期厳守」、「リードタイム短縮」を基軸にした活動推進が競争の武器になり得ます。リードタイムを短縮することでまず顧客に納期厳守の会社だと認識いただいて信頼を勝ち得て、それが他社との差別要素となり、相見積りの比較時の発注決定につながるという流れです。(第3図) 実際これまで改善活動をお手伝いした会社で、「リードタイム短縮」を進めることで受注増につながり、販売高が増えた会社は枚挙に暇がありません。
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但し、リードタイム短縮は簡単にできるわけでなく、一朝一夕では成し遂げられません。第3図にあるように「管理改善」、「計画改善」、「製造系改善」をバランス良く進めることが不可欠です。これらの活動が合わさって初めて最終的な目指すべき姿=受注増加・利益upが得られるのです。
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4.一品受注型生産のビジネスプロセス |
一品受注型生産は冒頭述べたように、関連各部署の連携が鍵となります。リードタイム短縮は生産部門だけが対応すれば良いものではなく、営業/設計/生産管理/資材調達/製造/物流など複数の部門が全体最適思想の下でしっかりと協力しないと解決できない課題です。リードタイム短縮に向けては引合いから出荷までのSCM全体を生産計画でコントロールする必要があります。工程間のタイミングの整合性を取りチェックポイントを明確にして、やるべきことがやるべき時に確実に行われることを確認していきます。そのためにはリードタイム全体を計画でコントロールするという仕組みが重要になります。一番悪いのは、どうせ遅れるからと製造完了から納期までの余裕を大きく取り過ぎて計画することです。その結果、すべての日程が前倒しになり、設計が中途半端になったり、資材調達が間に合わなくなったりします。結果としてやり直しが多発して、「予定どおり遅れる」わけです。遅れるくらいなら最初から後詰め計画にして上流側に余裕を与え、計画どおりに作業することが大事なのです。
この3ステージはそれぞれやることが異なり、メインプレーヤーも変わってきます。これら3つの流れをお互いに見ながら、改善を進めて行くことが肝要となります。 では次回のコラム以降で具体的なリードタイム短縮の進め方について説明していきます。
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株式会社アステックコンサルティング |