第83回 コスト・在庫の適正化につながる現場改善

現場改善と在庫の適正化



現場がうまく在庫を管理できないのはなぜでしょうか。つぎのような理由が考えられます。
・ なぜ在庫を抑えなければならないのかが、うまく理解されていない
・ 期末(中間)の決算期にしか在庫を見る習慣がない
・ 日常の入出庫管理がうまくできていない
・ モノの2S3定ができていないので、在庫が見えない
・ 適正在庫の基準やそれを維持する方法がわからない


生産革新第20-5


1.よくある事例

『とにかく期末在庫を減らそう』という動きをよく目にしますが、本当の原因を突き止めないままスローガンで終わることがあります。これには、つぎのような理由が考えられます。

● 現場担当者任せの在庫管理
過剰在庫と欠品リスクの折り合いをつけないまま、安心仕入をしてしまうことです。例えば、現場担当者が欠品回避や一括仕入れで手間やコスト削減ができると思い込み、多くの仕入をしてしまう場合です。いつか使うだろうからという発想で不動在庫化させてしまうのです。そんな状況での後任者は大変です。『自分のせいではない』という意識で不動在庫の処理を先送りしてしまいます。実際に、何年も前の誰も覚えていない在庫の処理に苦労するという話をよく聞きます。安心在庫と安全在庫は違います。それを混同して明確な管理基準を持たないことで良い在庫と悪い在庫の区別ができなくなるのです。挙句の果ては、『受注精度が悪いから在庫を持ってしまった』『仕入のリードタイムが長く不安定だから在庫を持たざるを得ない』など他責追求に矛先をかえてしまうことになります。


生産革新第20-5


● どこに、なにがあるのかわからない
現場(特に床面)がモノだらけで、思いのままの置き方では、『不動・緩動在庫に気づかない』 『在庫を気にしない』ことが多くなります。さらに、期末に棚卸をすればよいという意識が加わり日常管理がなおざりになってしまいます。

● 在庫削減が掛け声倒れで終わってしまう
とにかく、見えているものをランダムに抑制して総額で削減効果を狙うことがあります。上記図の『在庫の考え方』に書いた良い在庫まで失ってしまい、欠品による販売機会や顧客の信頼喪失につながります。そうなると、さらに在庫適正化に取り組むモチベーションがさがってしまいます。在庫は、瞬間の残高を見るより、一定期間(例えば月次)の在庫回転率を指標にするほうが効果的です。

● 在庫圧縮の効果的な策がわからない
在庫は滞留と言い換えることができます。確実な受注による必要分だけの仕入、短期間の生産品というスタイルが取れれば問題はありません。そうはうまくゆきませんが、目指す姿として日々改善を積み重ねることで大きな成果に近づくのです。工程間の手待ちを抑える平準化、仕入れ品の納期遵守率向上、手戻り(手直し)を見る直行率管理の仕組みなどが改善のポイントになります。


2.現場がやるべきこと

① 調達の方法を変える
・ 一括発注が安い・効率的だという誤解を解いて多頻度・少量発注の仕組みをつくる
・ 発注点(時期と量)とモノの所在(どこに何がいくつあるのか)を分けて管理する

(例)在庫管理は現場担当者が行っており、欠品を恐れ安心在庫が積みあがっていた
・ 発注方法 (最低在庫、発注時期、個数) を標準化して、調達部門が一括管理することにした
・ 必要なモノが揃っていることを確認して生産着手指示を出す仕組みに変えた

② 製造現場の管理方法を変える
・ モノの2S3定(整理整頓・定位/定量/定品)を維持する仕組みつくり
・ 不動・緩動在庫を生まない、放置できないように在庫を『見える』しる仕組みづくり

(例)各ラインで使う材料をそれぞれの手元に置いているが、棚卸の時しか在庫が分からない

・ 引当必要量だけを倉庫から払出すルールに変えた
・ モノ置き方を棚番管理とし、入出庫を自動で記録できるようにした
・ 置き場を制限して、仕様変更などで不要になったものを放置できないようにした


以上で、コスト・在庫の適正化につながる現場改善を終わります。



株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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