活動報告

生産革新講座

第41回 「食品工場の生産性向上のための人員管理術」

労務管理面での管理改善の考え方



1.従業員(部下)を大切にするという思想

前々回のところで言及したが、食品メーカーの特徴として従業員定着率が低いことが挙げられる。それは社員にもパートタイマーにも当てはまっている。
まず、社員を切り口に考えると、一般的に食品業界は他の業界に比べて給与が安い。それは、市場の品質要求は上がっているが、それを売価に反映させると競合が多い(一般的に食品業界は新商品を出しても、すぐに競合他社に真似されやすい)業界であるので、売上が下がってしまう。薄利多売で儲からない会社が多く、利益を出す為に労務費を抑えなければ生き残っていけない現状にある。ある新入社員は、「学生時代の友達と会っても給与の話はしたくない」という発言が出てしまうほどである。しかし、働くモチベーションは給与だけではない。社会貢献度や自己スキルの向上、つまり自分のした仕事が認められたり、自分のやりたい仕事が出来て充実していたりすると、給与の低さだけで退職したりはしないものである。しかし現在、そこに焦点を当てた従業員管理をしている食品会社はどれだけあるであろうか。私も職業柄、いろんな食品会社を見ているが、そこに焦点を当てた従業員管理をしている会社はほとんど見受けられない。
次にパートタイマーの方を切り口に考える。パートタイマーは基本的に、短い時間で効率的に稼ぎたいというベースの考え方と共に、楽しく働ける環境も同時に求めている。社員が丁寧に教えてくれて、わからないことがあればすぐに相談できて、同僚と仲良く仕事をしていきたいのである。また、仕事に見合った給料も欲しがるのも事実であり、長年勤めても1年目の人と時給が変わらなかったり、他の人のほうが仕事が楽なのに時給が同じであったりということでも不満を募らせる。しかし、その不満に対応している仕組みや管理が出来ている会社は少ない。

給与が低いながらも、従業員に長くいてもらおうと思うと、経営者や管理者は部下の気持ちを考える、部下を大切にするという基本思想が大切である。


2.キーワードはモチベーション

従業員のモチベーション向上と聞いて、そんなことは百も承知だが個人個人そのポイントが違うのにどうしたらいいんだ!というのがほとんどの経営者や管理者の意見だと思う。ここでモチベーションとマズローの要求5段階節との関連を見てみる。


生産革新第20-5


(図1)の「どんなときに仕事のやりがいを感じるか」とのアンケート結果によると、上位3項目は【自己実現の欲求】が満たされたとき、次の5項目は【承認の欲求】が満たされたときである。これは、マズローの要求5段階説の4段階目と5段階目の要求と一致している。これは、正社員に対するアンケート結果であるが、正社員に対してのモチベーション向上策を考える上で、結構高度な取り組みが必要であるとご理解いただけるであろう。

パートタイマーに関しては先ほども述べたが、面倒見であったり職場環境、仕事と時給の相対評価であったりというところなので、マズローの要求5段階説のところの2段階目と3段階目、一部4段階目が着眼点であろうと考えることが出来る。

3.コミュニケーションの重要性

前述したことに着眼し改革を行っていこうとしたとき、上位者が決めた仕組みで本当に従業員は満足するであろうか、また一度決めただけで今後十分であろうか。マズローの要求5段階説の3段階目、4段階目の部分に着目すると、自分の意見が会社の仕組みに反映されるという部分も大切である。また組織というものは時代環境に合わせて常に変化させいくのが自然な考え方であろう。そう考えたとき、「会社を良くするためにどうあるべきか」を本音で語れる場が必要である。つまり、意欲が湧く仕組みと風土作りの土壌が組織に備わっているのか、ということである。コミュニケーションなくして勝手に決められた仕組みでは、モチベーションは上がらないのもまた事実である。



定着率向上の取り組み



生産革新第20-5

今までお話してきたことをまとめたものを図2に示している。

 

1.社員に対する定着率向上策

まずは、入り口の【採用】の部分から考えていくことが必要である。自社のどんな機能が弱くて、どこの機能を充実させたいのか。その為には、どんな人材が欲しいのかを明確にしてから、採用活動を行うことが大切である。
例えば、パート募集をかけてもなかなか応募が来ない売り手市場の中で機械化によって少ない人員で生産できるように投資をしている企業が多いと思われるが、設備に強い社員がいない(設備保全機能が弱い)。一方採用実績は、機械系出身の採用はなく、栄養学や商学、国際学など出身の大卒採用がなされているケースがある。
実際その新入社員が製造現場に配属されて、職務に満足することは少なく、また会社側も求めるスキルが身に付かないと嘆き、お互いの齟齬が早期退職を招いている。

大卒でなければならない理由は何か?採用できれば出身学部は問わない、という採用戦略の無さが招いた結果である。

次に、入社した社員に対する教育制度の充実を図る必要がある。製造現場に配属され、日々出荷することだけに追われ数年が経過してしまうような会社が多い。1年目、2年目、3年目、4年目、5年目・・・それぞれの段階でどんなスキルを身に付けて欲しいのか、その為の教育や育成の制度をどうすれば良いのかを真剣に考えることが重要である。また、それを社員に伝え、お互いに納得していることが必須である。
その上で、各社員のやりたい職種、やりたい仕事と会社のやってもらいたい仕事とのマッチングをしていくことを考えることが求められる。希望職種の部門の人数が充足していて希望に添えない場合でも、希望職種を一定期間トライさせる制度や業務ローテーションなど会社として出来る仕組みや制度があるはずである。


2.パートタイマーに対する定着率向上策

(図2)にも示しているが、パートタイマーの定着率向上策の基盤は、作業環境改善。働きやすく雰囲気が良く、続けたいと思わせる職場作りである。

運用のコツのポイントを以下にまとめる。

 

  1. @入社時の面倒見・教育を厚く

●入社時の不安「仲良い仲間が出来るかな」「しっかり教えてくれるかな」等を解消する。

・パートリーダーには必ず一緒に昼食、休憩に行くように指示しておく。

・育成手順を決めて(最初は簡単な作業から)、出来るまで教育の面倒を見る。

・定期的な個人面談を実施する。また担当社員は毎日「声掛け」する。

 

  1. A基本は「ヨイショ」:気持ちよく働いてもらう

●おだてる(プライドをくすぐる)

・社員のパートに対する目的は「気持ちよく働いて、思うように動いてもらう」こと。

決して論破したり上から目線で話したりすることではない。おだてて操ることを優先的に考える。

 

  1. Bパート同士のいじめは、いじめた方を配置転換

●いじめを放置、黙認すると、組織崩壊へ繋がる(あの人の性格だから・・・で済まさない)

・いじめをする人間は作業が早かったり、出来る人間であったりすることが相対的に多い。だからと言っていじめを黙認することはしてはならない。人員定着率が下がり、工場の生産性を下げる。

・いじめた方を配置転換することによって、「信賞必罰」の原則を徹底させる。

 

  1. Cパートを“楽”にさせる改善を推進する

●食品工場は、女性パート、高齢パートが多いのが特徴で、この傾向はこれからも続く

・重労働やスキル・判断の必要な作業を無くしていく改善を推進する。(従業員は宝)

・いろんな意見や要求に対して『出来る・出来ない』の如何に関わらず、必ず返事をする。

 

  1. Dパートリーダーはたくさん作る

●パートリーダーは社員の右腕。数多く育てて、生産性の高い職場を実現させる

・日々のルーティン業務は、パートリーダーに指示すれば動くようにしておく。

・社員の仕事は「善く改めること(改善)」、出荷だけに追われる環境をなくす。

・リーダー手当等、会社組織として支援することが必要。

 

  1. E日々の業務ローテーションを実施する

●日々の生産の中で業務ローテーションを実施し、フレキシブルな応援が出来るようにする(図3)

 

生産革新第20-5

・日単位でチーム毎のライン間ローテーション、時間単位でライン内ローテーション。

・業務の違いでの不平不満(あの人の作業は楽!私は大変!!)をなくすことが出来る。

・いつ誰が休んでも、誰でもどの作業も出来るようにしておく。

・最初は効率を落とすこともあるが長期スパンで考えると安定した高効率生産が来る。

 

  1. F力量評価と昇給を連動させる

●多能工化率や業務処理量など、スキルやキャリアに合わせて時給を上げる

・長年勤めてもらっていて、辞めてもらっては困る人材と新入パートタイマーと時給が同じでは不満が募り、時給の高い他社へ転職されてしまう 。

 

 

以上、3回連載で行ってきた食品工場の人員管理術もこれで終わりとなります。

ご参考いただければ幸いに存じます。

 

より具体的な内容につきましては、2019年1月開催予定のアステック技術セミナーにて詳細に解説いたします。下記よりお申し込みいただけますので、ぜひご活用ください。


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株式会社アステックコンサルティング
シニアコンサルタント 播磨 知宣
生産革新講座 連載
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)NEW!
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)