活動報告

生産革新講座

第53回 「コストの見える化」

見えるコストと見えないコスト



1.見える化とは・・・

見える化という言葉が世に出始めてから久しくなりますが、多くの会社ではこの見える化という言葉の元、改善活動が広く展開されています。生産進捗の見える化、在庫の見える化、異常の見える化、改善活動の見える化など多岐に渡ります。この見える化の真髄は自分たちの役に立つ情報であれば、たとえそれがTOP層に評判の悪いマイナス情報であったとしても、公にさらして、周知する、共有する、意識をさせる、考えさせる、行動を起こさせるというところにあります。
一方、これに対して見せる化という言葉もあります。これは見せたい情報を見せたい人の都合で見せているものであり、見られては困る情報は載っていないのが一般的です。たとえば現場での5S活動の結果としての整理整頓された現場の写真であるとか、右肩上がりの歩留まりグラフであるとか、前向きな結果ばかりが載っている活動板などがそれに当ります。これらは今後の自分たちの活動には役立たない情報(つまり結果指標)であるため、一旦、現場に掲示されたとしても概ね更新されずに、次のイベントまでそのまま放置される場合が多いようですので、更新日を見ればすぐに見つけることができます。
我々はこのような見せる化の情報を“死亡診断書”と呼ぶことがあります。死んだ人の原因分析をいくら詳細に実施したところでもはや生き返らないのです。死ぬ前に死につながる要因を見つけ出し、都度、対処していくことが重要であることは言うに及びません。

つまり、自分たちの改善活動に役立つ日々の悪い情報を意識的に集め、その情報を起点に問題点を認識し改善のスタートとする、ための手段が見える化ということになります。従って必然的に情報の鮮度は高く、必要に応じた高頻度での更新がなされている必要があります。

 

2.見えないコストって何?

では、製造コストについての改善を進めるにはどうすれば良いのでしょうか?一般的には上述の現場改善の見える化と同様に、コスト構造を紐解き、どの費目にどれだけのコストが掛かっているのかを分析し、金額が大きなもの、費用対効果に疑問がもたれるものから改善候補として抽出されていきます。(=見えるコストの抽出)
多くの会社が、この方法で原価低減活動を推進されているのですが、いくら努力してもコストが下がらないというお話をよく耳にします。具体的には改善のターゲットとした対象費目はコストが下がったが、工場のトータルとして見ると利益が全く増えていないという類の問題が蔓延しているということです。これはなぜなのでしょうか?
たとえば、トップダウンで在庫半減の指示が出たとします。トップ層としては運転資金の確保と同時に倉庫費用の低減、スペース効率の向上等を目論んでの施策だと思われます。実際、在庫は半減し手元資金が潤ったと同時に外部倉庫との契約は解除し、倉庫費用は大きく改善されることでしょう。ところが、期末を迎えて決算が出ると工場としての利益は増えるどころか減ってしまったという事例を考えて見ましょう。
これは在庫半減による悪影響を被った部署が存在しているということです。つまり見えないコストが増大した部署が存在し、削減された倉庫費用を上回る余計なコストが掛かってしまったと言うことになります。しっかり管理しているのだからそんなことはあり得ないと思われるかも知れませんが、新たに生じた余計なコストは見えないコストであるため、管理ができていないということになります。
では、具体的に見ていきましょう。在庫半減による主な影響としては、「今までは十分な製造期間を確保できない受注に対しては仕掛かり在庫の中から製品を振り替えて対応していたが、これが出来なくなる」ことにより実力を超えた短納期品が増加するということが考えられます。


これによる悪影響として、
@ 原材料の特急手配・短納期管理としての調達部隊の工数増大
A 緊急発注による高コスト購買
B 特急品対応としての生産計画変更による間接部門(生産管理・調達)の残業増加
C 計画変更による現場作業者の計画外段取り替え頻発による工数増大
D それに伴う場内物流工数の増大
E 納期遅れ対応(ユーザーとの納期調整)としての営業経費の増大
などの費用が発生します。

 

これらの費用は原価費目上の特別の項目に振り分けられるわけではなく、原材料費、直接人件費、間接人件費等に上乗せして共通で賦課されるため、なぜ増加したのかが見えないままにいつの間にか増えているコストであり、いわゆる、見えないコストと言う事ができます(下図)

つまり、この見えないコストをいかに低減させるか、が利益を確保するには非常に重要であるということです。


生産革新第20-5


3.見えないコストの根本原因と対処方法

では、見えないコストがそもそもなぜ発生するのでしょうか?

企業のコスト低減活動を分類すると一般的に次の2つの改善方法に分けられます(下図)

 

@ PL型改善:Profit&Loss(=損益計算書)型改善
 → 売上に対して、掛かかるであろう費用や経費を少なくする改善活動
A BS型改善:バランスシート(=貸借対照表)型改善

 → 在庫や資産などの効率的活用を目指した改善

生産革新第20-5



PL型改善は身近な金銭感覚として捉えることが出来るので誰でも理解しやすく、その成果も利益という指標を用いて簡単に評価することができます。

逆に言うと問題点をすぐに見つけられるということでもあり、多くの会社が改善のターゲットを絞り込んで積極的に改善活動を展開されています。
一方、BS型改善は経営指標としての財務諸表を紐解くことによりその効果の認識は出来ますが、その評価は対前年比などの相対的なものに頼らざるを得ない場合が多く、問題を直感的に把握しづらい項目の改善活動となります。故に目の前の問題を課題として認識しにくく放置される場合が多いため、改善のメスが入りにくいのです。
このBS型改善の対象の中にこそ、多くの見えない(気付かない)コストの原因が多く潜んでいるということになります。
たとえば、リードタイムの短縮という改善は我々がもっとも推奨するテーマですが、これの改善によって、何が、どれだけ良くなるのか?的確に答えられる経営者はとても少ないのではないでしょうか。まず、最初に思いつくのはユーザー要求に応えられる納期設定ができることによる営業力の強化や信用の増大となります。次に仕掛かり在庫の低減による資産回転率の向上で投下資本利益率の改善が挙げられます。ここまでは比較的容易に思いつくでしょうが、ここからはリードタイムが短くなった自社の将来像を思い描いた時に初めて見えてくるものとなります。
つまり、リードタイムが短くなるということは全てが特急品ということですから、日頃苦しんでいる特急品対応がなくなると言うことなのです。突発の短納期受注がなくなることにより、様々な見えないコストが発生しなくなるということに気付けば改善のメスが入るのではないでしょうか?
前述2項@〜Eのような見えないコストをひとつずつ課題として取り上げることは、そもそも見えない、気付かないコストであるがため非常に困難であり、かつ、その改善活動は(特急品をなくせないために)混迷を極めることになりそうです。が、短リードタイムでのもの作りを仕組みとして作り上げることが出来れば自然と減少していくものなのです。 要するに的を射たものづくりの仕組み作りができれば、自ずと見えないコストは減少していきます。

見えるコストと見えないコストでは改善のアプローチが異なることを認識する必要があります。


次回はコストの改善活動での落とし穴について説明していきます。


株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 シニアコンサルタント 藤居 隆一
生産革新講座 連載
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)NEW!
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)