第4回 「生産の流れをコントロールする」

1.基準日程による管理

今までの回でも述べてきましたが、製造コストを大幅に下げていくためには生産上の各種トラブルを発生させないことが非常に大切であり、そのためには安定した生産計画を作ることが不可欠と言えます。

そしてその安定した生産計画を作るためには、生産計画立案上の柱となる基準日程をしっかりと作り上げることが非常に重要になってきます。
この基準日程とは各工程の所要時間を明確にし、各工程で停滞が発生しないように調整した基本工程計画のことで、通常は生産ラインや商品群別に作っていくことになります。

いわば初工程から最終工程までを最短リードタイムで流れるように作った基本計画であって、通常の生産計画はこの基準日程の流れに沿って計画を作っていくことになります。

この基準日程型の生産計画は管理面において非常にメリットの多い計画の作り方であって、各工程の着手時間や作業時間、終了時間を細かく設定することが出来るようになりますから、製造リードタイム短縮に加えて工程間の仕掛り削減や作業時間管理、生産性の向上などに非常に大きな寄与をすることになります。



■ 基準日程と生産計画線

基準日程と生産計画線



2.初工程から最終工程までを繋ぐ

この基準日程を解りやすく1本の線で表したものを生産計画線と言いますが、大切なのはこの生産計画線に沿って計画を組むと言うことであって、この計画線が重なったり、交差したりする計画は停滞時間を発生させるだけですから、出来るだけ避けなければなりません。
つまり生産計画線は常に平行であるのが基本で、これが何らかの原因で止まったり交差したりする場合は何らかのトラブルが発生していると言うことになるのです。

通常この生産計画線の流れに混乱を与える最も大きな要素は「特急生産」などと呼ばれる緊急生産で、これが入ると現在流れている製品は工程間で全て停滞することになる上にムダな作業が大幅に増え、製造コストは間違いなく上昇してしまうので出来るだけ無くしていかなければならないのです。

理想を言えばいくつかの商品が特急で流れるのではなく、全てが特急品と同じリードタイムで流れる状況を作り上げていくべきなのです。(これが一気通貫生産の目標である)
この基準日程を立てる上で最も大切なのは初工程から最終工程までをつないだ計画を立てると言うことで、途中で分断することは許されません。

また各工程は出来れば分レベル、悪くとも時間レベルでつないでいくことが必要で、実加工時間だけでなく工程内や工程間の停滞時間もしっかりと設定していくことが必要なのです。
つまり初工程への投入の段階で生産完了日時、場合によっては出荷日時までが明確になっている計画にしていくべきなのです。



3.追い越しをさせない作り方

やはり製造コストを下げるためには生産計画線が常に平行である層流状態(層流化)を作り上げることが大切で、追い越しをさせない生産計画作りとトラブルに強い現場体質を作ることが非常に大切になってきます。
そしてこの層流化を実現するためには以下の手順で改善に取り組むことが必要です。
(1) 製品を製造リードタイム別にグループ分けを実施する(グループ化)
(2) 各工程が直列で繋がるように流れの調整を実施する(疑似ライン化の実施)
(3) 各グループ別に代表となる製品の基準日程を作成し、生産計画線を決める
(4) 他の製品は生産計画線に合わせて各工程の通過時間を定める
(5) 工程や作業の統廃合を行い工程通過時間調整、工程能力設定を行う
(6) 工程通過時間に大きな差がある工程間には停滞許容工程を設定する
(7) 現状ベースのLTで層流化した生産計画を作成し、テスト運用を実施する
(8) 層流化が出来た後に、製造LTを短縮し生産計画線の傾きを急にする
これらの改善を行う上で多品種少量生産の企業では若干苦労する部分があるかもしれませんが、勇気を持って取り組めば確実に層流化の状態を作り出すことは可能になりますし、生産トラブルは確実に減少していきますから製造コストの低減とともに低コスト体質への転換は必ず実現することが出来るのです。


■ 乱流から層流へ
乱流の実態
層流の生産計画

日刊工業新聞社刊「工場管理」2011 VOL.56 No.2 掲載記事に加筆訂正
株式会社アステックコンサルティング
代表取締役社長 岩室 宏
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

お問い合せ

詳しい内容・ご質問・お見積り等はお気軽にどうぞ