活動報告

生産革新講座

第55回 「コストの見える化」

見えないコストのあぶり出し

 

第1回目に説明したとおり、製造業の見えないコストをひとつずつ見つけて、その低減のために手を打っていくことは、我々コンサルタントでもとても難しく現実的ではありません。その根本原因となっている仕組みを変えていくことが重要です。ただ、どの仕組みやシステム、やり方が悪くて見えないコストが発生しているのかを紐解かない限り、改善のターゲットが絞り込めないのも事実です。改善対象となる“悪い仕組み”を絞り込むためにも製造や設計の現状を分析して改善すべき対象のヒントを見つけていく必要があります。


ここではその見つけ方を種々の切り口から解説していきます。
製造業の現場での見えないコストの抽出には大きく下記の3つの切り口があります。
 @ 作業分析による見える化
 A 管理指標の活用による見える化

 B 生産管理面の仕組みに起因する見えないコストの抽出

1.作業分析による見える化

作業の中にどれだけのムダや無付加価値作業が含まれているのかを定量的に見える化する方法であり、代表的なものとしてIE手法があります。
 @ ワークサンプリング、連続作業分析によるムダの見える化
 A 標準作業時間の設定による作業工数管理でムダを事前キャッチする
 B ラインバランシングによるネック工程の見える化

 C 負荷グラフによる余剰工数の見える化

 

2.管理指標の活用による見える化

管理指標には実にさまざまなものがあり、職場の実態を的確に表すものであれば定型にこだわる必要はありません。指標を活用する上で重要なことは、推移を継続して見るという傾向管理を導入することです。これは指標が悪化する前に手を打つ、という観点からとても重要なことです(死亡診断書にならないように)

また、指標の数値とコストの推移の関係性を常に見比べることも大切です(下図)

 

生産革新第20-5



3.生産管理の仕組みに起因する見えないコストの抽出

これはそもそも、ものづくりの仕組みに起因する見えないコストにいかに気付いて改善対象とするか、という話です。
たとえば、営業からの受注情報の精度がわるく生産開始の3日前になっても、まだ生産数が確定しないといった事例です。これによる問題点としては、生産数が決まらないため材料を余分に手持ちしておく必要があり、置き場所の確保が必要だし、仕掛かり品の積み増しによる在庫金額のアップ、また、作業工数が確定しないので余剰となるかもしれない人員を抱えておくリスク等が存在します。
また特急品が当日、突然割り込んで入ってくるということも十分あり得ます。もともと立てておいた生産計画がムダとなり計画の立て直しが発生します。材料も手持ち分では不足し、調達部門は納期調整に奔走することになるし、緊急発注、高額調達となることも多々あるでしょう。また、現場では予め準備しておいた前段取りがムダとなり、一からの準備をせざるを得なくなります。また、特急品を優先的に流すため各工程間には先行投入品の仕掛かりが停滞します。仕掛かり置き場があふれ廊下や作業エリアが物置になり作業効率をさらに下げていきます。これに伴い、価値を生まない運搬作業も頻繁に行われることになります。
これらは最終的に直接作業者や間接者の残業増大となって具現化されます。また、納期遅延の原因になりユーザーからの信用失墜にもつながりますし、ムダ業務による作業時間の圧迫でミスの頻発や品質事故にもつながるものです。全てがコスト増大要因です。


@仕組み改善は自社だけではできない?
このような見えないコストにまずは気付く必要があります。見えないけれど確かに存在することに気付き改善の対象とすることが重要なのです。この問題の解決方法としては確定計画の運用ということになります。つまり営業は顧客からの情報をたとえば生産開始1週間前には確定させる仕組みの構築(=情報精度の向上)が必要であり、また、工場としては、1週間分の生産計画は確定計画として固定化し変更を認めないとするルールを運用することになるでしょう。これにより前述の多くのムダ(見えないコスト)が一掃されることになります。
ただし、この計画の確定化、営業情報精度の向上は相手(ユーザー)があるわけですから自社の努力だけでは解決できるものではありません。相手との信頼関係の構築から始まり、長期間を掛けてお互いの仕組みの見直しを推進していくしかありません。そんな中、自社の努力だけで計画の確定化を推進して見えないコストを削減していく手法が存在します。
それはリードタイムの短縮です。設計/生産の着手から完了までに掛かる時間を短縮するということです。これが見えないコストを大幅に低減させるということに気付かなければなりません。


Aリードタイム短縮の意義
製造リードタイムを短くするというと、営業的にはものを売りやすくなりますし、工場としては工程間の仕掛かりが減り、現場がスッキリする、運転資金が確保できる/設備投資に資金を回せる、資金効率(在庫回転率等)が向上する等の好影響が考えられます。
しかし、実はそれと同等か、もしくはそれ以上に大きな効果として計画変更頻度の減少を挙げることができます。つまり、短リードタイムでものを作るということは、生産の着手を遅らせることが可能であるということになり、ユーザーからの突然の注文数変更、仕様の変更、納期の変更等が舞い込んできても生産計画をいちいち見直す必要性がなくなる、と言うことです。
たとえば、通常の製造リードタイムが45日の製品の場合で、ユーザーからの注文変更が25日前に入ってきたら既に生産を着手しているわけですから計画の見直しが必要になります。この見直しを行うことにより前述したような多くの見えないコストが発生することになります。ところが、もし、この製造リードタイムが20日だった場合はどうでしょうか?まだ製造工程に材料を投入する前の段階での計画変更ですから、工場が受ける影響は最小限に留めることができるのです。つまり、見えないコストが大幅に知らぬ間に低減されているということになります。

また、ユーザーからの注文の変更は納期が近づくにつれて減少していくものです。これはユーザーも自社のユーザーに対して提示している出荷計画を守る必要があるため計画精度を高めているから、と考えられます。そう考えるといかに短納期でものづくりをするかが、計画変更を回避するのにはもっとも手っ取り早い方法であることが理解できるでしょう(下図)。

 

生産革新第20-5


以上をまとめると、生産の仕組みに起因した見えないコストの主要因としては製造開始後の計画変更が挙げられ、この計画変更を低減するための有効な手段として製造リードタイムの短縮があるということになります。ここに気付いて短いリードタイムでのもの作りができる仕組みを構築すれば、ユーザーの突然の計画変更にも対応できる確定計画でのもの作りが可能となり、至るところで現状発生しているであろう見えないコストを大幅に削減できることになります。


株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 チーフコンサルタント 藤居 隆一
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方〜開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方〜開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方〜開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)