第74回 品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る

企業にとって良品をお客様に届け、満足して頂けることは、最重要項目であり、「品質第一」、「品質は企業の命」と会社スローガンにも掲げ、品質改善活動に取り組んでいます。しかし、モノづくりに於ける3大要素(QCD)の一つである品質(Q)は、場合によってはコスト(C)や納期(D)とバーターされることがあったのも事実です。お客様の為にならない価値のないコストは削減しながら、品質改善との両立を図らなければなりません。



1.品質コスト

企業収益力向上の活動における品質改善の位置づけは、下記【図1】の通りで、QCDが密接に結びついていることが分かります。品質改善は、コスト削減と生産性向上による市場競争力の強化と、リードタイム短縮によるキャッシュフローの改善が期待されます。


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2.品質コストの分類

品質を維持や改善する為のコストを品質コストと言います。品質コストマネジメントは、品質コストを適切に管理する手法です。品質コストの内訳は、下記【表1】に記載の通りです。


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一般的に品質レベルと品質を保持する為に発生する費用は反比例関係【図2】にあり、極めて高いレベルの品質を求めれば、それ相応のコストが発生すると言えます。 不良率の低減は、一定の範囲(改善領域)までは努力ベースで行うことが出来ますが、更に高い品質レベル(投資領域)を求める場合には、多額のコストが必要です。予防・評価コストは、支出を任意に設定することが出来きる自由裁量コストです。総品質コストが最小化するポイントで品質計画を実践するという視点【図2】で品質管理活動が行われてきました。


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しかし実際には設備が老朽化しても保全コストを抑制するためにだましながら生産することによる総品質コストの上昇(【図2】左方向へのシフト)や、クレームや市場不良の発生により、検査強化が行われることで総品質コストが上がる(【図2】右方向へのシフト)が見られます。そうなってしまうのは、【図2】の状態では経済的品質水準の維持が困難であることからも明らかで、【図3】の状態に移行する必要があるのです。 製品のライフサイクルでの総品質コストを考えた場合、DRや生産設計など初期段階でしっかりと予防+評価コストを掛けることで、早い段階で内部失敗コストの大幅な低減を実現し、予防+評価コストの選択自由度を高めて段階的にコストを削減していく取り組みにする必要があります。また初期評価、初期流動管理において検査項目を増やす、検査水準を上げることが求められますが、総品質コスト抑制のためにはその確実な実施が求められますが、その鍵を握るのが品質管理部署です 。


3.品質力強化による損益分岐点を下げる方法

失敗コスト(損失)を低減させる事以外に、損益分岐点を下げ原価力強化を図る方法を以下に示します。


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① 固定費を下げる

前述の改善領域における予防コストと評価コストの部分に相当します。この場合、ほとんどが人件費になります。経営者が努力ベースで品質レベルをどの位に狙うかにより、増減することになります。

 

② 限界利益の改善

比例費の大部分は、購入する部品や原材料になります。安い部品を購入する為、設計合理化による部品の削減や別メーカの部品への置き換えなどありますが、見極め不十分な新規メーカの部品を採用した結果、大きなツケとして返ってくることもあり要注意です。設計だけに任せず、品質保証や資材部門の協力も必要になります。

 

③ 売上高を増やす

直接的に高品質で売り上げを伸ばすことは出来ませんが、当たり前品質を確保しながら魅力的品質を向上させ、メーカとしての信用とブランドイメージを更に高揚させる事で、副次的に貢献する事になります。



-損益分岐点を下げる為に関わる職能-
下の表の通り、設計部門のかかわりが大きく、その重要性がわかります。


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4.今後の品質強化ポイント

① ソフトウェアの肥大化

自動車やAV機器の様な電子制御が増大化している製品は、製品の複雑化に拍車をかけており、ソフトウェア開発の比重も高くなっています。製品によっては、完成品の出荷直前にようやく完成するようなことも発生しており、品質とコストにも大きな影響を及ぼしています。しかし出荷前に全ての使用条件の組み合わせをチェックするのは不可能で、お客様にご迷惑をお掛けしないレベルに到達した時点で出荷となりますが、ソフトウェアのバグをゼロにすることは実際の所、不可能です。PCやスマホのアプリの様に、製品化後もソフトウェアのバージョンアップが実施されおり、万が一、発売後にソフトウェアの大問題が発生した場合、出来るだけ簡単な方法で対策(サービス対応等)が出来る様に事前に仕込みが必要です。

 

② 人材

品質に関して人材影響も大きな変動要素の一つです。技術部門に於いては、マニュアル化、標準化、モジュール化、組み合わせ設計、標準化などの対応で、経験の浅い人新人やや言語、習慣や文化も異なる海外拠点での開発に対応する為に工夫もされています。後戻り設計やコンセプト自体を後でひっくり返す事の無い様に、初期段階での検討が非常に重要です。ただ注意すべき点は、実績のあるものを組み合わせても、出来上がり状態では別の製品との認識が必要です。どこまで目利きが目配りできるか、重要なポイントになります。

 

③ 隠れた不良

工場からの製品出荷までには、各部門が各ステップで性能評価と短期信頼性試験を複数の目で確認し最終検査を行っていますが、市場でリコールが多発し外部失敗コストとして大きなロスになっています。従来の品質管理は、製造品質を主体とし主に製造部門を対象とした管理技術です。品質管理手法では限界があり、品質管理を従来以上に厳しくしても対策になり得なくなっています。品質管理で見つからなかった問題点を明らかにし、未然に防止する方法が品質工学(タグチメッソド)になります。品質工学は、品質管理手法が適用出来ない設計や開発の部分で未然防止を図る手法で、開発・設計段階で適用されます。市場で発生する不具合を設計段階で未然に防止する為、未知の現象を予測しなければならなく、経験や過去のデータでは予測出来ません。また魅力的品質を向上する取り組みは設計の安全係数を低下させることに繋がることも多く、今後益々プロセスウィンドウは狭くならざるを得ません。新たな品質管理手法をどん欲に導入していく必要があるでしょう。


「品質第一」は、「お客様第一」に通じます。自分の価値観をしっかり持つことは大事な事ですが、こだわりを持ちすぎるとお客様が見えなくなり、お客様第一が実践出来なくなるリスクがあります。品質の良し悪しもお客様がどう感じるか、という感性の部分で、定量的には語れない領域です。特に当たり前品質に関する問題は、罪悪であり発生させてはいけない事ですが、必ず何か発生するという事を前提としたリスク管理を、新しい時代に合った品質マネジメントシステムを構築することで対応する必要があります。



以上で「基礎からしっかり理解する品質保証と品質管理」は終わりとなります。より詳しい内容を知りたい方やより早く成果へたどり着きたい方は弊社までご連絡ください。



株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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