活動報告

生産革新講座

第54回 「コストの見える化」

改善したのに下がらないコスト



1.高コスト体質と低コスト体質

世の中には2つのタイプの会社が存在しています。何を作っても他社に比べて低コストで提供できる会社と、何を作っても高コストでしかもの作りができない会社です。全く同じものを作っていても原価には大きな差が発生してしまいます。これはなぜでしょうか?
現在のように、FA、ITが発達し、グローバル調達が可能な環境において国内で同じような製品を作り上げようとすると、同じような生産設備を購入して、類似のベンダーから材料を調達するわけですから、その設備投資額や原料費、資材費にしても会社により大きな差が生じない状況だと思われます。また、雇われている従業員の人件費でも日本国内であればさほど大きな差が生まれるものではありません。
それなのにコストに大きな差が生じるのは管理力の差、あるいは製造技術力の差であると言えます。たとえば、歩留まりが悪い、手直しが多い、生産数に関係なく人員はほぼ一定、設備停止(故障)が多い、トラブルが頻発、生産計画変更が日常茶飯事、またこれらが原因で間接部隊や管理職が多い(いつの間にか増えている)というような現象がコストを増大させており、これらをコントロールできていないがために高コストとなっているのです(下図)。

この中にも見えないコストが多数含まれていることに気付かなければなりません。

 

生産革新第20-5



また、この管理力のなさは困ったことに景気の浮沈を経るたびにコストをどんどん増大させていきます(下図)。
たとえば、本来6人で作業していた職場で生産数が半減した場合、管理力のある職場では作業者を半分の3人に減らしますが、管理力が弱いと半分には出来ずに1.5人減らして4.5人にしかできなかったと言ったようなことで差が出ます。正社員だからそう簡単には減らせないという個別の事情もありましょうが、問題はむしろ、このあと景気が回復した時の対応にあります。つまり、管理力のある職場では生産数が本来の数に戻ったら3人を6人に戻すわけですが、管理力のない会社では数が倍になるのだから作業者も倍にする必要があると考え4.5人→9人にしてしまうのです。当初、生産数が半減した時に1.5人分の余裕工数が発生していたわけですが、景気の回復に時間を要した場合、余裕の1.5人の作業者にも何らかの仕事を与える必要があり、今までになかった仕事を創って与える(あったほうが良いという仕事)、もしくは品質第一の言葉の元、作業スピードを下げて3人で出来るところを4.5人で作業するという手が取られるのです。この状況で生産数が倍になれば、作業者はもはや現状の作業内容、作業スピードに慣れてしまっているので、工数を倍にせざるを得ないと言うことになるのです。これは景気の低迷期が長いほど当時を知っている人間が少なくなり元に戻せなくなってしまうものなのです。
こんな馬鹿なことがあるわけはないと思われるかも知れませんが、実際は現場のみならず、間接業務においても同様のことが蔓延しており高コストに苦しんでいる会社がとても多いのが現状です。当の会社にとってはこのコストは全く見えておらず、気付いてもいない正に見えないコストと言う事ができるでしょう。

この見えないコストを見える化するのはかなり困難であるため、管理力の強化により見えないコストが発生しない仕組み作りを推進する必要があります。

 

生産革新第20-5


2.改善活動が経営指標に結びつかない事例

前項では放っておくだけでコストが増大する話をしましたが、ここではコストの見える化により問題を抽出して改善活動をしたにも関わらず、成果がでないという事例を紹介していきます。

@ 人件費低減のため労働生産性を指標として改善活動をし、+20%の生産性向上が確認できたが、労務費は全く変わっていなかった。
整数単位の人員削減が出来ていないため。
たとえば0.4人分の工数を浮かせた場合は、その工数で別の付加価値作業をする仕組みを構築しないと作業が早く完了したが、その後、遊んでいる(ムダ)事になってしまう。

A 調達部隊が取引先別評価制度を導入してランク付け(見える化)を開始したが3年経ってもコスト低減は全く進んでいなかった。
評価結果を実際の購入量に反映させる仕組みがないため。
コスト低減のための手段であるはずの取引先評価が目的となってしまい、評価するだけで終わっている。

B コスト見積をしたら内作より外注の方が低コストであることが判明し、外注出しを開始したが、製造コストはむしろ上昇してしまった。
見積の数字を信じてしまっている失敗の典型例。
外注出しは社内工数が不足している場合には有効であるが、社内工数(=固定支出)が余っている状況で外注出し(外部流出費発生)を推進すれば、コスト上昇は当然。

C 海外メーカーの部品がコスト見積の結果、自社部品に比べ30%も安いため早速導入し、部品購入費は大幅に低下したが利益は横ばいのままであった。
コスト見積はある時点、ある条件下でのみの価格であり、為替や生産数量の変化で大きく振れることを考慮する必要がある。また、海外品であれば当然、製造リードタイムが長くなるため、たとえば半年後の不確かな情報で注文を出す必要があるため、作り過ぎによる廃棄/不足による特急高額調達の可能性が増大するし、何よりもトラブルが発生した時の対応工数(海外出張等)は国内産の比ではなくなる。このような想定外のことを考慮した上での導入検討を行っていないため、見えないコストが積み上がっている。


上記事例はいずれもコストの見える化をして、高コストなものに対して手を打ち始めたところまでは良かったのですが、

・低減したコストの受け皿・仕組みの準備不足(=@A)、および
・成果をあせるが故に近視眼的/個別最適思考に走った的外れな活動(=BC)

ということが出来ます。

つまり、自らが打った施策についてそれが実現できたときの成果の刈り取り方を仕組みとして構築しておくこと、また、打った施策によってどれだけの見えないコストが発生するのか?

そのポテンシャルを事前にしっかりと見極める必要があります。


では、次回は見えないコストの具体的なあぶり出し方法について説明していきます。


株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 シニアコンサルタント 藤居 隆一
生産革新講座 連載
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)NEW!
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)