第64回 全体最適型改善のススメ

1.大きなロスは組織間で発生する

日常の業務遂行上で発生するトラブルを分類すると、組織内で発生するものと組織間で発生するものに大きく分けられる。組織内で発生するトラブルは製造部門であれば設備のチョコ停や故障、品質問題、納期遅れなど、間接部門であれば転記ミスや入力ミス、情報伝達上のミスなどが発生するが、基本的にこれらは相対的に影響度が少なく、自部門内で解決できる内容が多いと言えるだろう(通常の改善活動で取り組める)。ただ、工程間に発生するトラブルは根の深いものが多く、発生原因を特定したり、具体的な改善策を立てたりすることができないものも多く存在する。

また、解決のためには複数部門の協力が必要な課題も多く、自部署だけでは対処できないものがほとんどだ。 図6は工場における情報の流れとモノの流れを簡易的に表わしたものである。顧客からの情報は営業部門から業務部門などを通じて生産管理部門に流れる。生産管理部門はその情報をもとに生産計画を立案し、調達工程や製造工程はこの生産計画をベースに材料を発注したり、現場の段取りを進めたりすることになる。この情報の流れ、モノの流れを見れば各種の大きなトラブルはすべて工程間に発生することがわかる。 たとえば、生産管理と製造間では生産計画の変更、数量変更、指示のあいまいさなど数多くのトラブルが発生し、設計と生産管理間では出図遅れ、足長部品の発注遅れ、設計変更による遅れの発生など数多くのトラブルが発生している。これらの問題は今まで発生していること自体は多くの人が認識しているが、自部門だけで取り組むことができないために、長年放置されたままになっている。 つまり、複数部門が横串的につながって全体最適型の改善を行っていく体制が取れるようにしなければ、これらの課題は今後もずっと部門間で横たわったままになってしまい、企業の成長の足かせになってしまうのだ。


生産革新第20-5



2.具体的な全体最適改善の進め方

複数部門を対象に進める全体最適化改善では、以下のような方策を取って改善を進めていくことになる。(図7)



生産革新第20-5



全体最適化プロジェクト(PJ)を必ず設置する
目指すべき姿の共有化(価値観の統合)
複数部門からメンバーを選出
トップの強い関与は不可欠である


最も重要なのは①の部門間の利害を超えて全体最適化視点で判断を下させる機能または組織(全体最適化PJ)を設置することだ。この全体最適化PJでは、部門間に発生する各種問題の調整と改善に対する新しい価値観の提供(会社としての価値観の明確化)、具体的な改善方法および手順の決定を行っていく。先に述べた通り、横串的な複数部門が関与する活動では、部門ごとの価値観の押し付け合いや主導権争い、逆に消極的で動こうとしないなど種々の問題が発生するので、全体最適化チームでコントロールしていくことが非常に重要である。 ②の目指すべき姿の共有化も非常に重要な項目だ。多くの場合、活動を推進している人は最終的なイメージを持っておらず、共有もされていない場合がほとんどである。目指すべき姿が不明確ならばどちらに進んで良いのかわからなくなるし、改善にかけた労力が全くのムダになる場合も発生する。そのため早い段階で目指すべき姿を明確にし、各部門、各人で共有しておくことが不可欠だ。 ③の複数部門からのメンバー選出も上記①②で発生するトラブルを未然に防止するための取組みである。複数の部門の人が参画すればものの見方も多様化し、色々なアイデアを出してもらうことも可能になる。ただこの場合に重要なのは、自分は部門代表として参加しているのではなく、会社全体の最適化のために選ばれたメンバーであると認識させることである。部門代表の気持ちのままでは先に述べたようなトラブルが発生するので、意識を変えて活動に取り組むことが大切だ。 ④のトップの強い関与も全体最適型の改善活動を進めるに当たって、非常に重要な項目の1つである。部門によって違う価値観を1つにまとめられるのはトップだけであり、利害の伴った対立を解くことができるのもトップだけだ。つまりトップの強力なバックアップがない限り、このPJが目標を達成することはできない。トップの活動に対する関与の度合いは成果に直結するので、積極的に活動に参加してほしいものである。 以上、本稿では全体最適化改善の重要性について述べた。先述の通り多品種少量生産環境や成熟市場での改善では、全体最適を意図した改善が不可欠になるし、強み伸張型改善により競争力アップを意図した改善を行うに当たっても全体最適発想は不可欠のものになる。“部分最適から全体最適へ”これが今後の改善活動を行っていく上での最も重要なカギになる。読者の皆さんもぜひこの考えをベースに改善を進めていってほしい。



株式会社アステックコンサルティング
代表取締役社長 岩室 宏
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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