第6回 「生産設計によるコストダウン」

1.生産設計という考え方

前回は設計の仕組み変更によるコストダウンとして、設計パターン選択の仕組みの話をしましたが、更に確実にコストを確実に下げていくためには「生産設計」の仕組みを構築することが必要です。図1に概略を示しますが、一般的に設計には市場要求や製品戦略から作成する「開発設計」と顧客要求から作成する「製品設計」がありますが、コストダウンを確実に行っている企業ではこの後に工場要求を反映させるための「生産設計」を行います。

生産設計とは言い換えればコストレビューであって、工場視点で設計を点検することにより部品の共通化や部品点数の削減、組立工数や加工工数など材料費だけでなく製造コスト削減を含めたコスト全体(製造原価)を下げる事を目的としたチェック工程のことなのです。

この生産設計はコストダウンには大きな影響を与えるのですが、多くの企業は必要だと思っても設計リードタイムが長期化してしまっているために生産設計の時間が取れず、コスト的に不十分な状態のまま出図し材料発注をかけてしまっているのです。そのため生産設計を行うためには設計リードタイムを短縮し、確実にレビューが出来る体制を作らなければならないのです。



生産設計が出来ているか



2.製造に要するコストを下げる

生産設計はコストダウンの有力な手法でありツールですが、これが十分出来ていないと以下のような問題点が発生します。

  • 部品点数の増加、共通部品化の遅れ、パターン化・ユニット化の遅れ
  • 特殊材料や特殊加工方法、特殊表面処理などの起因する材料コストアップ
  • 材料選定ミス、調達先選定ミスによる高コスト購入
  • 部品加工方法の制限によるコストダウン不足(曲げ、抜きなどの加工方法)
  • 組み立て作業工数や機械加工工数アップによる人件費アップ

これらのように生産設計の不足によって発生するコストアップ要因は非常に多岐にわたり、材料費だけでなく労務コストにも直接影響を与えますから、出来るだけ確実に行っていかなければならないのです。また生産設計によるコストダウンは「安く作るための技術」を磨くものでもあり、ここで得られた技術は今後の製品設計にも活用出来るものですから継続的にコスト低減効果を出し続けることが出来るのです。そしてこれらの技術が積み重なることによって「低コスト体質企業」に転換することが出来るのです。



3.実施の決め手はリードタイム

生産設計を実際に行っていく場合に最も大切なのは、先に述べたとおり設計リードタイムを短縮し生産設計が出来る時間を確保すると言うことになりますが、そのためには以下のような取り組みが必要です。


設計の仕組み改善はどこに効くのか



  • 設計パターン選択の仕組み構築(新規設計を出来るだけ減らす)
  • 標準化の推進、部品登録制による設計自由度の制限
  • コンカレント設計(並行設計、分業設計)によるLT短縮
  • 設計情報自体の精度アップによる設計変更(途中変更)の防止
  • 設計効率自体の向上、設計負荷調整の仕組み作り

これらの項目を確実に実行していくことによって設計リードタイム短縮を進めていく事が大切なのです。特に設計効率については設計者が設計できる環境作り、設計に集中できる時間を意図的に確保してやることによって大幅な効率アップが可能ですから、是非とも取り組んでいってほしいと思います。



4.仕組み改善はどこに効くのか

今まで述べてきた製造と設計の仕組み改善がどの部分に効果が出るのかを示したのが図2です。
横軸が工程の流れで実線が改善前のコスト決定カーブ、点線部分が改善後のコスト決定カーブを示しています。一般的に製品コストの大半は設計工程で決まってしまうのですが、生産設計の仕組みが有ればここでコスト検証を行いますから材料コストは大きく下がるのです。そして製造や物流工程では生産の仕組み改善による労務コスト低減に加えて、見えないコスト削減によってコスト水準自身の上昇を抑えていくので、最終的に大幅なコストダウンが実現できるのです。

今まで6回にわたって製造や設計の仕組み改善について述べてきましたが、この中で言いたかったのは「仕組みが変わればコストは必ず下がる」と言うことです。どうか皆様方も勇気を持って「仕組みを変えてコストを下げる」取り組みにチャレンジしていってほしいと思います。


日刊工業新聞社刊「工場管理」2011 VOL.56 No.4 掲載記事に加筆訂正
株式会社アステックコンサルティング
代表取締役社長 岩室 宏
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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